当院における首周囲痛の診療のポイント
point
1整形外科専門医
による「診断」
的確な「治療」のためには、病気や病状の「診断」が必要です。まずは整形外科専門医による「診断」を受けましょう。
2整形外科専門医と
理学療法士による
「治療」
治療には色々な選択肢があります。医師による処方や注射、理学療法士によるリハビリテーション、電気治療や牽引などです。
理学療法士は国家資格を持ったカラダの動きを診るプロです。
医師による治療設計のもと、理学療法士が患者さんそれぞれの問題点を明らかにしつつ、治療にあたります。
長引く症状や繰り返す症状であるほどリハビリテーションが重要となります。
このページでは、首周囲痛の代表的な病態として、肩こり・頸肩腕症候群と頚椎椎間板ヘルニアについて解説致します。
肩こり・頚肩腕症候群
stiff shoulder
肩こりとは「首から肩、肩甲骨にかけての筋肉の緊張感を中心とする不快感、こり感、重苦しさ、鈍痛」と定義されます。自覚症状のなかでは、男性では腰痛についで第2位、女性では第1位の症状となっています。人類が二本足の直立歩行へと変化したことで、重く大きな頭を頚椎で支えるだけでなく、体重の約8%ある上肢を筋肉によりぶら下げることになり、頚椎には絶えず負荷が加わるようになったのです。さらに、文明社会の進歩が、ストレスの増大、単調労働による局所疲労の蓄積、運動不足を生じさせ、肩こり・首こりなどで悩む人が多い原因となっているのです。
頚肩腕症候群は、首から肩、上肢、背部にかけての痛みやしびれ感、脱力、冷感などを呈する状態です。自律神経障害として、めまい、耳鳴り、眼精疲労等を伴うこともあります。肩こりの症状がより拡大し、複雑化したような病態です。
病態・原因
「肩こり」という病態は実のところあまり明らかではありません。
原因として、女性・不良姿勢・睡眠時間5時間未満・精神的ストレス・心理的な緊張が挙げられます。不良姿勢とは、いわゆる猫背のことです。頭部が体に対して前方に突出していることで、首周囲の筋肉が緊張します。長時間の持続的筋緊張が肩こりの原因となり、デスクワークの方に多くみられます。また、上肢の反復動作の多い作業や、上肢を挙げた状態で行う作業では、肩の筋肉内の圧力が高まり、血流障害が起こりやすくなります。悪い姿勢や慢性疲労などの好ましくない生活環境が原因となる一種の「生活習慣病」と言えます。
肩こりや腰痛に代表されるような筋痛では、筋への過負荷によりアセチルコリンという筋肉を収縮させる物質が持続的に放出されるようになり、それによって筋肉の過緊張が持続します。また、この過緊張により筋肉への血流量が減少し局所の低酸素状態が生じます。この低酸素状態から様々な物質が生成され、これもまた痛みやこりが持続する原因となります。さらに、精神的なストレスや心理的な緊張は肩こりに関わる筋肉の緊張を上昇させます。
検査
肩こりの検査は特別に存在しません。ただし、頸椎バランスのチェック、頸椎疾患を区別するためにレントゲンチェックを行うことが一般的です。肩こりの方はストレートネックであることが多いです。顔が下を向くような姿勢や猫背で長時間いることによって筋肉の緊張バランスが崩れ、頸椎のバランスに変調をきたします。頸椎は本来前方凸のカーブをしていますが、ストレートネックとはこのカーブが失われている状態です。カーブが失われていること自体も、肩こりの原因にもなりえます。
治療
薬
疼痛に対しては、消炎鎮痛剤の経口剤や外用剤を用います。また、筋肉の過緊張に対しては、筋弛緩剤や漢方薬を用います。
注射
トリガーポイントブロック注射
トリガーポイントとは筋肉が部分的に凝り固まったところ、痛み神経が集中しているところ、とされており、強く押すと痛みがでます。トリガーポイント注射は、そのポイントに局所麻酔薬を注射して痛みをやわらげる方法です。
ハイドロリリース注射
主に生理食塩水を用いて癒着している筋膜(筋肉と筋肉の間の膜)を剥がす治療法です。筋膜間に生理食塩水を注入することで、痛みの改善に効果があることがわかっています。
超音波ガイド下筋膜リリース
リハビリテーション
前述のように、悪い姿勢や慢性疲労など、好ましくない生活(仕事)環境が原因となる一種の「生活習慣病」と言えます。リハビリテーションでは、このような姿勢や環境に対する指導・修正をはじめ、徒手療法、セルフエクササイズの指導などを行います。
徒手療法では、筋肉や関節系などへの治療アプローチをそれぞれ行います。筋膜リリース(筋膜の癒着を引き剥がしたりすることで正常な状態に戻す治療)、マニピュレーション(組織に伸ばす力を加える治療)、モビライゼーション(様々な方法で反復的に動かす治療)等です。
セルフエクササイズはストレッチングや筋力強化が主体となります。緊張し短く硬くなっている筋肉にはストレッチングを、伸びきって筋力が弱まっている筋肉には強化を行います。
物理療法
頸椎牽引、温熱療法、低周波治療などがあります。局所の循環や代謝の亢進により、痛み物質の排除が期待できます。また、筋肉の緊張をやわらげる効果や、組織の柔軟性改善が期待できます。
ツボ・鍼灸
当院では行っておりません。首痛の特効穴3点(僧帽筋圧痛点:肩井・肩中愈・肩外愈)が知られています。自律神経系の不調を回復させ痛みをコントロールするなどの目的もあります。
頚椎椎間板ヘルニア
cervical disc herniation
ここまでは頚椎周囲を支える筋肉の病態を解説してきましたが、ここからは頚椎内部での代表的病態である頚椎椎間板ヘルニアを解説します。
椎間板ヘルニアと聞くと何か特別な病気になってしまったような気持ちになる人もいらっしゃるかもしれません。首に対する負担は、周囲の筋肉だけではなく頚椎本体にも蓄積します。頚椎本体における負担の蓄積で生じる病態の1つが頚椎椎間板ヘルニアです。肩こりで悩まれる方が多いわけですから、同様の原因で生じる頚椎椎間板ヘルニアの方も同様に多いのです。整形外科診療としては日常的に遭遇する病態ですから過剰な心配は不要です。
病態
椎間板は骨と骨の間でクッション材の役割をしています。椎間板ヘルニアは、図で示されているように、椎間板に対する負担の蓄積の結果、椎間板が脊髄の通り道に飛び出してしまった状態のことです。
症状
神経(脊髄)が障害されたことによる症状が出ます。神経障害による症状は、主に首から肩甲骨周囲の痛み、上肢の痛みやしびれです。通常これらの症状は、首を動かすことや姿勢不良で悪化する傾向にあります。神経への障害が強いと、上肢の筋力低下や動作障害、歩行障害、排尿障害をきたすこともあります。
診断
病態の把握や重症度の把握には診察所見が最も重要となります。各種テストを行います。
画像診断としてレントゲン撮影を行います。レントゲンでは椎間板そのものを観察することはできませんが、頚椎(骨)の変形の度合い、椎間板摩耗の程度をチェックします。レントゲンで目視可能な変化がある場合は、目視不可能な椎間板も変化がある、すなわち椎間板ヘルニアを生じている可能性もあると推測できます。
MRIでは椎間板ヘルニアを観察することが可能です。しかし、やや時間とお金がかかる検査ですので必要性を見極めて提案させて頂いております。
治療
安静
治療とは言えませんが、痛みが強い場合は休職を含めた安静も重要です。
薬
一般的な消炎鎮痛剤や、神経障害による痛みやしびれ専用のクスリを用います。他にも、慢性痛のクスリも効果があることがわかっていますし、弱オピオイドというやや強めの鎮痛剤も効果があります。
注射
トリガーポイントブロック注射
トリガーポイントとは筋肉が部分的に凝り固まったところ、痛み神経が集中しているところ、とされており、強く押すと痛みがでます。トリガーポイント注射は、そのポイントに局所麻酔薬を注射して痛みをやわらげる方法です。
神経根ブロック
神経根とは、脊髄から分岐した直後の比較的太い神経です。トリガーポイントブロックでは、かなり末梢の神経がブロックされますが、ブロック注射はより中枢であればあるほど効果が高いです。ただし、中枢のブロックの方がやや安全性は低下します。当院では、中枢のなかでも神経根よりやや末梢の神経幹という部分を、安全性を高めるために超音波で確認しながらブロック注射します。
リハビリテーション
肩こりと同じように首にかかる負担が原因ですから、姿勢不良など、好ましくない生活(仕事)環境が原因となります。リハビリテーションでは、このような姿勢や環境に対する指導・修正をはじめ、徒手療法、セルフエクササイズの指導などを行います。
物理療法
頸椎牽引、温熱療法があります。除痛を目的に行います。
手術
手術ではない治療を保存的治療と言いますが、通常は1~2カ月程度の保存的治療で70~80%が改善します。手術の主な対象は以下のようになります。保存的治療で改善が得られない場合、耐え難い激しい痛み、進行性の運動障害、排尿障害等です。
手術が必要な方は高次医療機関にご紹介致します。手術には、神経への圧力を取り除くための様々な方法があります。