診療のポイント
point
1整形外科専門医
による「診断」
的確な「治療」のためには、病気や病状の「診断」が必要です。まずは整形外科専門医による「診断」を受けましょう。
2整形外科専門医と
理学療法士による
「治療」
治療には色々な選択肢があります。医師による処方や注射、理学療法士によるリハビリテーション、サポーターの使用や物理療法などです。理学療法士は国家資格を持ったカラダの動きを診るプロです。医師による治療設計のもと、理学療法士が患者さんそれぞれの問題点を明らかにしつつ、治療にあたります。長引く症状や繰り返す症状であるほどリハビリテーションが重要となります。
手首と手の症状は整形外科の受診症状の第3位です。小さな部位に多くの骨と関節が密集するため、トラブルも発生しやすいのです。パソコンやスマートフォン操作を頻繁にすること、ピアノなどの楽器演奏をすること、あるいは野球、テニスなどのスポーツをすること等、皆さんにとっての日常動作が原因となっていることがほとんどです。年齢や女性ホルモンなども関係があります。
このページでは、手・手首症状のなかでも特に多い腱鞘炎と、肘に同様の原因で生じる上腕骨外側上顆炎について解説致します。
腱鞘炎(ドケルバン病・ばね指など)
Tendonitis
病態・原因
腱鞘炎は、骨と筋肉をつないでいる「腱」と、腱を包む「腱鞘」という組織に炎症が生じるものです。指や手首を曲げ伸ばしするときには、腱鞘の中を腱が往復運動しています。手の使いすぎなどにより、過剰な摩擦がはたらくことで炎症が起こります。腱や腱鞘は全身の様々な部位に存在していますが、腱鞘炎は、細かな動きが他の部位に比べて格段に多い手首や手に主に発症します。
原因は主に次の4種類に分けられます。
- 酷使によるもの。PC作業、楽器演奏、文字の書きすぎ、スポーツ活動が主な原因です。
- 加齢によるもの。加齢に伴い、腱が弱くなり、腱鞘も厚く硬くなります。それにより炎症が生じやすくなります。
- 女性ホルモンの影響。更年期以降や産後に女性ホルモン(エストロゲン)が低下するため。エストロゲンには組織を滑らかに保つ働きがありますので、この働きが低下すると炎症が生じやすくなります。
- 他の病気の影響。糖尿病の方、人工透析を受けている方、関節リウマチの方などは腱鞘炎が起こりやすくなります。
手首や手の腱鞘炎にもいくつかの種類があり、頻度が高いものとして、手首に症状が現れるドケルバン病と、手指に症状が現れるばね指をご紹介します。
ドケルバン病
「病」とありますが、特別な病気ではありません。古くから広く認知されている障害は「病」と表現されがちです。ドケルバン病は、手首の親指側に生じる腱鞘炎です。
ばね指
ばね指は、指の付け根に生じる腱鞘炎です。腱の腫れた部分が腱鞘を通過する際に引っ掛かりが生じ、カクンと跳ねるように通過します。この際、見た目にも指がカクンと跳ねるため、この症状をばね指といいます。
症状
炎症が生じた腱鞘の周囲に、痛み、腫れ、発赤などが現れます。指や手首に痛みが生じるだけでなく、腱鞘が腫れて狭くなるために腱のスムースな動きが妨げられ、指の動きが悪くなります。ペットボトルのキャップが開けられない、物をつまめないなど、日常生活の様々な動作に支障をきたすようになります。炎症が悪化すると腱の周囲にある神経に刺激を与え、しびれを伴うこともあります。
ばね指では前述の通り、指を伸ばそうとするとある角度で引っかかり、さらに伸ばそうとするとばねで弾かれたように急に指が伸びる症状が起こります。
検査
主に診察所見や問診内容により判断します。付近の関節の劣化を確認するためにレントゲン撮影を行う場合や、炎症の程度を確認するために超音波を用いる場合があります。
治療
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安静
酷使によって生じているものでは、病院での治療だけではなく、日常における負荷をいかに減らせるかが重要です。
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薬
疼痛および炎症に対して、消炎鎮痛剤の外用や内服を用います。漢方薬が有用な場合もあります。
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注射
腱鞘内にステロイド注射を行います。ステロイドは炎症止めとしての効果が非常に高いので、治療効果はとても優れています。ただし、確率はとても低いですが、複数回の注射による腱断裂などの合併症が報告されています。したがって、日常的な負荷を減らす工夫などにより、いかに再発させないかが重要となります。
当院では正確で安全な注射を行うために超音波ガイド下注射をおこなっています。超音波画像をご覧ください。この画像では皮膚から深さ1cmまでの間に腱鞘と血管が隣接しています。このような部位に対して画像を確認せずに注射すると、誤って動脈に穿刺してしまう危険性があります。
超音波画像
超音波ガイド下注射の風景
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装具療法
手首周辺の腱鞘炎ではサポーターの装着も有用です。
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リハビリテーション
前述のように、腱鞘炎の主な原因は酷使によるものです。それ以外にも、好ましくない生活(仕事)環境や、悪い姿勢やポジショニングが原因となる場合もあります。リハビリテーションでは、このような姿勢や環境に対する指導・修正をはじめ、徒手療法、セルフケアの指導などの個別対応を行います。再発予防を積極的に考えられたい場合には有用です。
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物理療法
主に超音波治療を行います。
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手術
注射加療を行っていても短期間で再発を繰り返す場合や、注射が多数回に及ぶ場合は手術が推奨されます。腱鞘炎は、イラストのように腱鞘を開いてしまえば理論上は起こらなくなります。手術を要する場合は病院にご紹介します。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
Lateral humeral epicondylitis
病態・原因
上腕骨外側上顆炎は「外側上顆(肘の外側の骨)」と「短橈側手根伸筋(手首を伸ばす筋肉)」の境目に生じる炎症です。原因は、仕事やスポーツで頻回に手関節を使用することによるものがほとんどです。年齢に伴い組織が劣化することも発症の要因となります。日常生活動作で発症することが大半ですが、ラケットスポーツ愛好家に生じやすいのでテニス肘とも呼ばれます。
症状
肘の外側の痛みが中心となります。痛みが放散し、肘の後方や前腕まで痛むこともあります。
検査
主に診察所見や問診内容により判断します。付近の関節の劣化等を確認するためにレントゲン撮影を行う場合や、炎症の程度や組織の劣化を確認するために超音波を用いる場合があります。
治療
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安静
使いすぎにより生じているものがほとんどですので、日常における負荷をいかに減らせるかが重要です。具体的には、重量物の保持や、強い握り動作を避けるべきです。図のようなストレッチも有効です。
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薬
疼痛および炎症に対して、消炎鎮痛剤の外用や内服を用います。漢方薬が有用な場合もあります。
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注射
患部にステロイド注射を行います。ステロイドは炎症止めとしての効果が非常に高いので、除痛効果はとても優れています。ただし、確率はとても低いですが、複数回の注射による腱断裂などの合併症が報告されています。したがって、日常的な負荷を減らす工夫などにより、いかに再発させないかが重要となります。
難治例ではバイオセラピーが有用である可能性があります。
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装具療法
外側上顆炎専用のサポーターの装着も有用です。外側上顆からやや末梢の筋肉を圧迫することで、外側上顆周辺への負担を軽減することができます。
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リハビリテーション
外側上顆炎の主な原因は酷使によるものです。それ以外にも、好ましくない生活(仕事)環境や、悪い姿勢、使い方、フォームが原因となる場合もあります。また、それらの負荷に対して適切なケアが出来ているかどうかも重要です。リハビリテーションでは、動作、姿勢、環境に対する指導・修正をはじめ、徒手療法、セルフケアの指導などの個別対応を行います。再発予防を積極的に考えられたい場合には有用です。
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物理療法
主に超音波治療を行います。当院では取り扱いはありませんが、体外衝撃波が有効である可能性があります。
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手術
非常に稀ですが、難治例では手術加療を行う場合もあります。