変形性膝関節症に自家培養軟骨移植「ジャック®」が保険適用に|対象となる方の条件をわかりやすく解説
2026.07.01
2026年1月1日から、これまで外傷性の軟骨損傷などに用いられてきた再生医療等製品「自家培養軟骨ジャック®」が、変形性膝関節症に対しても保険適用されるようになりました。テレビや新聞でも取り上げられ、「自分も受けられるのでは」と期待されている方もいらっしゃると思います。
今回は、整形外科専門医の立場から、ジャック®がどのような治療なのか、そしてどのような方が対象になりやすいのかを、できるだけわかりやすくご説明します。
自家培養軟骨「ジャック®」とはどんな治療か
ジャック®は、患者さんご自身の膝関節から少量の軟骨組織を採取し、それを体外で培養してから、すり減ったり欠けたりした軟骨の部分(軟骨欠損部)に移植する再生医療等製品です。培養した軟骨細胞をコラーゲンでできたゲルの中で育て、欠損部に移植するという仕組みになっています。
2012年に承認され、2013年から外傷性軟骨欠損症・離断性骨軟骨炎に対して保険が適用されてきました。そして2025年5月に変形性膝関節症への適応が新たに承認され、2026年1月1日から変形性膝関節症についても保険診療で受けられるようになったのです。
どんな方が保険適用の対象になるのか
変形性膝関節症に対するジャック®は、誰でも受けられる治療ではありません。保険診療として認められるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
主な条件は次のとおりです。
湿布や飲み薬、注射、運動療法などの保存療法を行っても十分な効果が得られないこと
軟骨欠損の面積が2cm²以上あること(外傷性軟骨欠損症では4cm²以上が基準ですが、変形性膝関節症では2cm²以上に条件が緩和されています)
日本整形外科学会が定める適正使用指針に沿って、医師が総合的に適応を判断すること
つまり、「膝が痛い変形性膝関節症の方なら誰でも受けられる」治療ではなく、保存療法で改善しない方の中でも、一定以上の大きさの軟骨欠損がある、比較的限られた方が対象となる治療です。
レントゲンの進行度(K-L分類)との関係
変形性膝関節症の進行度は、レントゲン写真をもとにした「Kellgren-Lawrence分類(K-L分類)」というグレード0〜4の指標で表されることがよくあります。数字が大きいほど、関節の変形が進んでいる状態です。

ジャック®の効果や安全性が確認された国内の主な臨床試験では、対象となったのはK-L分類 グレード2または3の方でした。グレード4、いわゆる骨と骨がぶつかり合うほど高度に進行した変形性膝関節症は、この試験の対象には含まれていません。
そのため、
グレード2〜3は、比較的検討しやすい段階
グレード4は、軟骨の一部を修復するというジャック®の考え方だけでは対応が難しく、人工関節置換術など、膝全体の治療方針を改めて考える段階
と整理していただくとわかりやすいかと思います。関節全体がすでに大きくすり減っている状態というよりも、「まだ修復すべき軟骨欠損部分」と「残っている関節機能」がある段階が、本来の狙いどころといえます。
治療がうまくいきやすい条件・慎重に考えたい条件
現時点(2026年)では、変形性膝関節症に対するジャック®の長期的な成績はまだ研究が進んでいる段階です。そのため、臨床試験で対象とされた条件・除外された条件をもとに、目安としてお伝えします。
治療効果が期待しやすいと考えられる条件
K-L分類グレード2〜3で、関節全体ではなく限られた範囲の軟骨欠損であること
欠損の周囲に、移植片を縫合して固定できる健康な軟骨が残っていること
強いO脚・X脚がないこと
半月板の機能が大きく損なわれていないこと
BMIが30未満であること
75歳未満であること
手術後のリハビリテーションにしっかり取り組めること
慎重に検討すべきと考えられる条件
K-L分類グレード4、または関節全体に軟骨のすり減りが広がっている場合
強いO脚・X脚がある場合
BMIが30以上の場合
75歳以上の場合
治療が必要な半月板損傷を伴う場合
骨の中まで及ぶ病変や骨のう胞を伴う場合
これらはあくまで臨床試験の対象・除外条件から導かれる目安であり、実際に治療を受けられるかどうかは、レントゲンやMRIなどの検査結果をもとに、医師が総合的に判断します。
軟骨だけでなく「膝全体のバランス」も大切
ジャック®は軟骨の欠けた部分を修復する治療ですが、膝にかかる体重のかかり方の偏り自体を直す治療ではありません。
そのため、強いO脚・X脚がある場合や、半月板の機能が十分に働いていない場合には、軟骨だけを修復しても同じ場所に負担がかかり続けてしまい、期待した効果が得られにくくなる可能性があります。
実際、国内の臨床試験でも、強いアライメント異常(O脚・X脚)や、治療が必要な半月板損傷がある方は対象から除かれていました。ですので、ジャック®を検討する際には、軟骨の状態だけでなく、脚の骨のバランス、半月板の状態、靭帯の安定性、体重、日常の活動量などを含めて、膝全体の状態を評価することが重要です。場合によっては、骨切り術や半月板の修復術と組み合わせて治療方針を考えることもあります。
年齢の目安について
臨床試験では、20歳以上75歳未満の方が対象とされていました。また、65歳以上の方については、これまでの使用経験がまだ十分ではないため、慎重に判断するべきとされています。
目安として、
20〜64歳:比較的検討しやすい年齢層
65〜74歳:一人ひとりの状態を見ながら慎重に判断
75歳以上:臨床試験の対象外であり、より慎重な検討が必要
という整理になります。ただし、年齢だけで一律に決まるものではなく、活動性や骨の状態、変形の程度、体重、リハビリへの取り組みやすさなども合わせて判断されます。
体重(BMI)との関係
臨床試験では、BMI30以上の方は対象から除外されていました。そのため、BMIが30以上の変形性膝関節症の方に対する効果や安全性は、少なくともこの臨床試験の範囲では十分に確認されていないというのが正確なところです。
軟骨を修復する治療は、手術そのものだけでなく、術後に膝への負担をどれだけ減らせるかも重要なポイントです。体重が増えるほど、膝の軟骨にかかる負担は大きくなります。BMIが高めの方は、治療の効果を高めるためにも、体重管理に取り組んでいただくことが大切です。
実際にどのくらいの効果が報告されているか
国内で行われた臨床試験(ランダム化比較試験)では、ジャック®を移植したグループとヒアルロン酸注射を行ったグループとで、膝の症状を評価するWOMACというスコアを比較しています。52週(約1年)の時点で、ジャック®を用いたグループのほうが、ヒアルロン酸注射のグループよりも大きな症状の改善が報告されました。
また、関節鏡や画像検査による評価では、移植から52週の時点で、多くの症例において軟骨に近い組織による修復が確認されたと報告されています。
短期的には期待できる結果が示されている一方で、長期的な効果については、これから研究が積み重ねられていく段階であるとご理解いただくのが良いかと思います。治療効果には個人差があり、すべての方に同じ結果が得られるわけではありません。
まとめ
変形性膝関節症に対する自家培養軟骨移植「ジャック®」は、2026年1月から保険適用となった新しい治療選択肢です。ただし、保存療法で効果が得られない方の中でも、軟骨欠損の大きさやレントゲン上の進行度、膝全体のバランス、年齢、体重など、さまざまな条件をふまえて適応が判断される治療です。
「変形性膝関節症だから誰でも受けられる」というものではなく、膝の状態を丁寧に評価したうえで検討する、関節を温存するための治療の一つとお考えいただければと思います。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. ジャック®を受ければ、軟骨は完全に元通りになりますか?
A. いいえ、完全に元通りの軟骨になることまでは確認されていません。ジャック®は、すり減ったり欠けたりした軟骨の部分の修復を目指す治療です。効果には個人差があります。
Q2. レントゲンの進行度がかなり進んでいても受けられますか?
A. K-L分類でグレード4にあたるような、高度に進行した変形性膝関節症は、これまでの臨床試験の対象には含まれていません。この段階では、骨切り術や人工関節置換術など、別の治療法が中心に検討されることが多くなります。
Q3. 年齢や体重による制限はありますか?
A. 臨床試験では75歳未満、BMI30未満の方が対象とされていました。65歳以上や高度な肥満がある場合は、より慎重な判断が必要とされています。年齢や体重だけでなく、膝全体の状態から総合的に検討されます。
Q4. 手術後、すぐに普段どおりの生活に戻れますか?
A. いいえ、移植した軟骨を定着させるためには、長期間にわたるリハビリテーションが必要です。また、痛みや腫れ、関節の動きの制限などが一時的に生じることもあります。
※本記事は、公表されている添付文書や臨床試験の情報などをもとに、一般的な内容をわかりやすくまとめたものです。治療の適応や効果、リスクには個人差があります。
文責 谷口整形外科リハビリクリニック 院長 谷口真史
