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高齢者の踵(かかと)の痛み|寝ているときに踵が当たって痛い原因と対処法を整形外科医が解説

2026.06.12

「横になっているだけなのに、踵がベッドに当たって痛い」「朝、起き上がる前から踵がズキズキする」——こんなお悩みを持つ高齢の患者さんは少なくありません。

踵の痛みと聞くと、「歩いたから痛い」というイメージが強いかもしれません。しかし実際には、体重をかけていない安静時や就寝中にも踵が痛むケースがあり、その原因は一つではありません。原因によって対処法がまったく異なりますので、「どこが・いつ・どのように痛いか」をきちんと整理することがとても大切です。

この記事では、高齢者に多い踵の痛みの主な原因を、寝ているときの痛みを中心にわかりやすく解説します。

踵の痛みは「場所」と「タイミング」で原因を絞れます

まず知っておいていただきたいのは、踵の痛みを見分けるうえで大切な二つのポイントです。

一つ目は「どこが痛いか」。踵の裏の真ん中なのか、内側寄りなのか、後ろ側なのか、によって疑う病気が変わります。

二つ目は「いつ痛いか」。朝の一歩目が特につらいのか、長く歩いた後に痛むのか、寝ているだけで踵が当たると痛いのか。この違いも、原因を絞るための重要な手がかりです。

高齢者に多い踵の痛みの原因

  1. 踵部脂肪体の機能低下(かかとのクッションの衰え)

踵の裏には、「踵部脂肪体(しょうぶしぼうたい)」と呼ばれる特別な組織があります。単なる脂肪ではなく、細かい線維の仕切りによって小部屋状に区切られた、衝撃吸収に特化した組織です。歩くたびに体重の何倍もの衝撃がかかる踵を守るクッションの役割を担っています。

加齢とともにこの組織の弾力性や水分量が変化し、衝撃を十分に吸収できなくなってきます。最新の研究(Maemichi ら、Clinical Biomechanics 2024)でも、加齢によって踵部脂肪体の内部構造や荷重時の変形パターンが変化することが報告されています。また、日本国内でも2024年に専門誌でこのテーマが取り上げられるなど、注目が高まっている分野です。

この病態(踵部脂肪体症候群)では、次のような特徴がみられます。

踵の裏の真ん中あたりが痛む
硬い床を裸足で歩くとつらい
長く立ったり歩いたりすると悪化する
打撲したような深い鈍い痛みがある
クッション性のある靴や踵パッドで楽になる

「寝ているときも踵が当たると痛い」という訴えも、このクッション機能の低下で説明できることがあります。踵を保護する力が弱まると、体重がかかっていない状態でも、ベッドや布団との接触が不快な刺激になることがあるのです。

ただし、踵部脂肪体症候群の診断基準はまだ確立されておらず、脂肪体の厚みだけで症状を説明できるとは限りません。弾力性や内部構造の変化、荷重時の動きなども関係していると考えられています。

  1. 踵の圧迫障害・褥瘡(じょくそう)の初期

「寝ているときだけ踵が痛い」「踵を浮かせると楽になる」という場合は、単なるクッションの衰えではなく、圧迫による組織の障害が起きている可能性があります。

踵は皮下組織が薄く、踵骨が突出しているため、仰向けで寝た状態では局所に圧力が集中しやすい部位です。高齢者では皮膚が薄くなり、血流や組織の修復力も低下しているため、長時間の圧迫によって深部の組織が傷ついてしまうことがあります。

特に注意が必要なのは、次のような状況です。

寝ている時間が長い、寝返りが少ない
入院中・手術後・骨折後
認知症や麻痺がある
糖尿病や末梢神経障害がある
末梢動脈疾患(足の血流が悪い)がある
痩せている、低栄養、浮腫がある

初期には皮膚に目立った傷がなくても痛みが先行することがあり、赤紫色・暗赤色の変色、押しても消えない赤み、水疱などがみられる場合は要注意です。

予防の基本は、踵をベッドや布団から「完全に浮かせる」ことです。ふくらはぎの下に枕やクッションを入れて踵が寝具に触れないようにすることが有効です。国際ガイドライン(NPIAP/EPUAP/PPPIA 2025年版)でも、踵の圧迫障害の予防には踵を支持面から完全に離すことが強く推奨されています。柔らかいものを踵の下に置くだけでは不十分で、踵が浮くように下腿全体を支えることが重要です。

  1. 足底腱膜症(そくていけんまくしょう)

成人の踵痛でもっとも頻度が高い原因が足底腱膜症です。足の裏のアーチを支える腱膜に繰り返し負荷がかかり、変性や炎症が起こる状態です。

典型的な症状は、

朝の一歩目が特に強く痛む
座ったあと、立ち上がった直後が痛い
少し歩くと一時的に楽になる
痛む場所は踵の内側寄り(踵の真ん中よりも少し内側)

「寝ているときに踵がベッドに当たって痛む」という症状は、足底腱膜症の典型的な症状とは少し異なります。ただし、「夜中にトイレに立った一歩目が痛い」という意味で「寝ていると痛い」と表現されている場合もありますので、問診で丁寧に確認することが大切です。

  1. 踵骨の疲労骨折・脆弱性骨折

「最近急に痛くなった」「歩く量が増えた後から痛い」「荷重がつらい」という場合は、踵骨(かかとの骨)の骨折も考えます。

高齢者では骨粗しょう症を背景に、大きな外傷がなくても比較的軽い負担で骨にひびが入ることがあります(脆弱性骨折)。また、急に歩く量が増えたときに疲労骨折が生じることもあります。

踵の内側と外側を両側から挟むように押すと痛みが増す(スクイーズテスト)こと、腫れがあること、体重をかけるのがつらいことが手がかりになります。初期の骨折は単純X線(レントゲン)でわかりにくいことがあり、疑いが強ければMRIが有用です。

  1. 末梢神経障害・神経の絞扼(こうやく)

踵の痛みに「しびれ」「ピリピリ感」「焼けるような感覚」「電気が走る感じ」が伴う場合は、神経の問題を考えます。

代表的なものとして、足根管症候群(そっこんかんしょうこうぐん)や内側踵骨神経障害、Baxter神経障害などがあります。糖尿病に伴う末梢神経障害や、腰からくる神経症状(S1神経根障害など)も鑑別に入ります。

神経性の痛みは、体重をかけていない状態でも、また夜間にも強くなることがあります。「寝具が少し触れるだけで痛い」「足全体がジーンとする」といった訴えは、神経性疼痛を疑うサインです。ただし、神経の問題であっても、必ずしもしびれが伴うとは限りません。

  1. 末梢動脈疾患による血流不足

「足が冷たい」「夜間に足先や踵が痛む」「足をベッドの外に下げると楽になる」という場合は、末梢動脈疾患(足の血管が詰まりかける病気)も視野に入ります。

高度の血流障害では、横になっているときに足への血流が減るため、夜間痛が起こることがあります。足を垂らすと重力で血流が増えて一時的に楽になるのが特徴です。

糖尿病の患者さんでは神経障害が合併していることが多く、血流が悪くても痛みを感じにくい場合があります。痛みが少ないからといって安心できないのが、この病気の怖いところです。

  1. アキレス腱付着部症・踵骨後部の問題

「踵の後ろ側が痛い」「靴のふちが当たると痛い」「つま先立ちがつらい」という場合は、踵の裏ではなく踵の後ろ側の問題を考えます。アキレス腱の付着部の変性や炎症、踵骨後部の滑液包炎、骨の出っ張り(Haglund変形)などが原因として挙げられます。

  1. 炎症性疾患・感染症・骨腫瘍

頻度は多くありませんが、安静にしていても痛みが強い、夜間に特に痛む、発熱・腫脹・体重減少などを伴う場合は、関節リウマチ・脊椎関節炎・痛風・骨髄炎・悪性腫瘍など、踵の機械的な問題以外の病気も考える必要があります。これらが疑われる場合は、血液検査や画像検査を含めた精査が必要です。

診察・検査ではどんなことを調べるのか

踵痛の診察では、「どこが痛いか(圧痛の場所)」「いつ痛いか」「皮膚の状態(色調変化・傷・腫れ)」「しびれの有無」「歩行との関係」「生活状況」などを丁寧に確認します。

高齢者の踵痛では、歩きすぎによる痛みだけでなく、寝ている時間が長いことによる圧迫、加齢による脂肪パッドの機能低下が絡み合っていることが少なくありません。生活の様子まで含めて診ることが大切です。

画像検査は、X線(レントゲン)、超音波(エコー)、MRIを目的に応じて使い分けます。疲労骨折が疑われる場合はMRIが特に有用です。超音波では、踵の脂肪体の状態や足底腱膜の変化を確認することができます。なお、X線で踵骨棘(かかとの骨の出っ張り)が見つかることがありますが、骨棘があっても必ずしも痛みの直接原因とは言えず、画像所見だけで診断を決めることはしません。

自宅でできる工夫

踵のクッション機能低下が疑われる場合の日常的な工夫として、次のことが参考になります。

裸足での歩行を避ける
クッション性のある靴を選ぶ
踵を保護するインソールやヒールカップを使用する
長時間立ち続けることを避ける

寝ているときの踵の痛みが気になる場合は、ふくらはぎの下に丸めたタオルや枕を入れ、踵が布団やマットレスに触れないように浮かせてみてください。これだけで楽になることがあります。

ただし、皮膚に赤みや色の変化・傷がある場合、痛みが急に強くなった場合、しびれがある場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。

文責 谷口整形外科リハビリクリニック 院長 谷口真史

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